悲夢(ネタばれあり)

キム・ギドク監督で、主演がオダギリ・ジョーにイ・ナヨン
僕は、イ・ナヨンの隠れファンでして、彼女が出演する映画を見ては、そのはつらつとした演技に「いいねえ」と思っていたのですが・・・。

この映画、脚本的に全然よろしくなくて、暗いし、痛いし、気持ち悪いし、設定も相当無理してるし。
監督の神経症的世界に付き合わされて、疲れてしまいました・・・。40点。
僕は、低い評価の映画についても、もったいないなあと思ったときだけ長いレビューを書きますが、これもその一つです。

ネタばれ有りなんで、以下それでもいい人だけ読んでください。
とりあえず、楽しみにしてる人は読まないように。

■悪いところ
・基本的に痛い
自傷シーンとか痛くて怖くて目を覆ってしまいましたが、こういう痛みを映画で使う際には、作法的なものがあると思うんですよ。
でも、ギドク監督は「アートだからOKだ。」と言わんばかりに自傷シーンを多様。最後、主人公二人とも自殺ですからね。
物語構築上の必然性も感じないし、そもそも発想が悪趣味すぎます。
・言語のすれ違い
⇒日本語と韓国語でお互い喋りあっていて、別にそれはいいんですけど、、、え、それだけなんですかい?なんか、この設定について脚本的な活用は一切ない。説明もなければ、展開もない。ただ、別の言葉でお互い話してるだけ。
別にメディアアート的なことしたいならそれもいいんですけど、映画人ならそれを超えて脚本に生かしたらどうですかね。この演出によってやりたいことも言いたいことも分かるけど、効果的かといわれればNOです。
・脚本的にひどい
⇒設定として面白い部分もあるんですよ。ただ、不思議ちゃんの精神分析医が出てきて、神秘主義丸出しに「二人は一つです。」とか言ってみたり、興味深い困難を提示しておいて、オチの付け方が自殺だし。設定自体の正当化や説明について強引過ぎるし、謎を提示していて、謎解きには向かわない。しかも、結局死んで終わるっていうのは、主題提示というよりは放棄に見える。これを見て何を思えと言うんだろう。監督は「2回見れば分かる」とか言ってますけど、そのコメントはモラルがなさ過ぎる。映画の物語構築の方が、観客の読解力より優れていると言いたいかのようですが、これは明らかにおごりです。恥ずかしいよ。誰が二回も見るんだよ、この映画を。
・精神病観がちょっと???
⇒なんなんですかね。精神病に救いでも求めてるんでしょうか、この人は。夢の世界についても、分析や解決には向かわないし、治療的な発想はゼロ。病気になって死ねばいいって思ってるのかしら。最後の方で、これまた濃いキャラの精神病患者の女性が、すごい演技力でイ・ナヨンに絡みますけど、この人の扱い方って浅い理解に基づく差別に近いんじゃ。なんか喜んで主人公の自殺の幇助してるし。意味わかんねえっす。(精神の難しさを侮るな、と彼は言いたいのでしょうか。当然、僕も無知なんで良く分からないんですが・・・)
もし、オダギリ・ジョーの見る夢が人間の欲動を形にしたもの(情欲、嫉妬)でコントロール不可能なものなのだと言いたいのであれば、それにどう向き合うかという部分で、キム・ギドク監督は悲観的な結論の持ち主だと思いますね。でも、そのデカダンス路線の現実主義には僕自身は結構食傷気味なのですよ。もう世紀末じゃねえからさ。タナトゥスに固執するのは個人的に好みじゃないや。気の持ちようってあると思うのよ。

■良いところ
イ・ナヨンはいい
⇒健康的な化粧もさせてもらえず、最後は気が狂ったみたいになって自殺っていう、ひどい役ですけど・・・。演技頑張ってました。あとやっぱかわいい。ひどい脚本だったけど、映画がまともな外観を保てているのは彼女のおかげですよ。
・オダギリ・ジョーもまあいい
⇒僕、この人って気取っててそんなに好きじゃないけど、存在感はありますね。雰囲気あるし。いいと思いました。この人のよさは演技力とは違うレベルですね。佇まいというか。コマーシャル的にも役割を果たしたね、というのは失礼かしら。
・映像はいい
⇒これ別に撮影監督がいいってことなのかもしれんし、キム・ギドクの仕事なのかわかんないけど、色合いとかカメラワークとかとてもよかった。綺麗に取れてたし、画作りが効果的で必要なことがよく伝わってきました。
・ロケハンがよい
⇒ロケ地はよいですね。古い時代の韓国の建築物にみんな暮らしていて。韓国の今後の地方の開発はこの方向性でいったらいいんじゃないかと思いました。胡蝶の夢をモチーフにしているから、中世の韓国の雰囲気が溶け込んでいるのはとてもよかった。
・脚本にもちょっといいところがあった
⇒脚本をぼろくそ言いましたが、要するに必要以上にアートを気取らずに普通にやりゃ上手いんだと思います。途中で、二人が交代で寝たりしているシーンなどは展開的にスマートだと思うし、最初の導入部もキレがあって良かったと思う。結局、オチの付け方と自傷趣味を直せばいい映画のはず。監督のやりたいことがそもそも悪趣味なのが敗因。

■総論:基本的に自分を追い詰めるタイプ
こういうタイプの人っていますよね。僕もそうですけど。w
何かしらの状況に巻き込まれたときに、責任を含めて自分だけで背負い込んで破綻するっていう話ですから、そういうのが美しいとか共感に値するって思ってないと、こういう話は書かないと思う。実に孤独ですね。
本当にどうしようもない時は、誰かの助けが必要だと思うんですよね。人間って。

あと、反エンターテイメントなのか、芸術家気取りなのか分かりませんが、見る側を気分悪くさせるっていうのがやりたいことだったとしたらとりあえず成功してるね。
分かりづらいってのも、いい場合と悪い場合があって、この映画は明らかに駄目な方向で分かりづらかった。
物語りの着想やキャスティングが良いだけに、残念なのです・・・。